取材録・ドールハウスKIMURA

四月に発売されたAqoursのCD『Happy Party Train』
一か月前に公開された恒例のPVに登場し、話題となったお店『ドールハウスKIMURA』に、我々は3月末取材を許可していただいた。

取材にご協力していただいたのはオーナーの木村浩之Hiroyuki)氏。
なんとこの御仁、国際ミニチュア作家協会の最高位『フェロー会員』でもあり、日本ミニチュア作家協会の会長である正に『その道のプロ』である。

・ラブライブ!について

オファーを受けた理由は?

浩之氏
「我々もお店をやっているので。
お店は【人が来てなんぼ】です。だから、【ラブライブという作品をきっかけにウチを知ってもらえる良いチャンス】と考えました。
なので、二つ返事でオファーも受けましたね。」

・四月発売のCD、そのMV視聴動画が三月に公開されたことについて

浩之氏
純粋に楽しみです。元々向こうから『もしかしたら、人が多く訪れるので……』ということを教えていただいて。
その時に『想像を超えるくらいの人が来ますよ』ということは念押しされましたね。
額面通り受け取れば、【願ってもないチャンス、どんとこい!】だったので。」

・アニメ二期以降、沼津がどうなるか…

浩之氏
「今、この現象を好意的に受け止めているし、期待もしています。
ただ、一つだけ言えるのは『どう自分たちの商売とうまく絡めていくか』が、このブームをこれからも支えるために重要だと思うんです。

我々の店をいわゆる【聖地】として皆さん来てくれますよね。そんな【聖地】が100%グッズ屋としてやってしまったら逆に、ブームが早く去るんじゃないかなって。
作品を見て、そのシーンを描いて皆さん来るじゃないですか。
後々になって、初めて人がここに来る時に【アニメグッズで埋め尽くされていました】なんてなったら、もう【ドールハウス屋じゃない】なんてなるじゃないですか。
取材を受けた時点でウチはそういうことをしたかったんじゃなく、【あくまでもきっかけ】として訪れる皆さんとコミュニケーションをとっていき、【ラブライブの聖地】として楽しんでいただきつつ、あくまでも【自分たち自身と自分たちのお店、そして『ドールハウスという世界があるんだよ』ということを伝え】て、この後につなげていく。
各々がそれをしていくことで、もっと魅力的な街になっていくんじゃないかなって。

今のラブライバーさんたちが、後々になって、いずれブームが去って、誰も沼津からいなくなりました。じゃあ寂しいでしょう?
いずれブームが去るのはわかってはいるけども、今そこをうまくいい形に構築していければ、遺っていくんじゃないかなって考えるんですよ。
そうしていきたいですね。

要はね、関わった当事者である我々の気持ち次第なんです。
棚から牡丹餅って気持ちでやっていくのか、それともブームがいつまで続くかじゃなくて『一生続くブームにしてしまえ』って意気込みでやっていくのか。では相当大きな差が出ますよ。
今関わっている人たちはそうしようと思っているって、信じたいですけどね。
少なくとも、我々はその想いでやっています。

大事なのは人と人の関わり合いで、場所だけじゃないよね。
こうやって話をしている二人(KとアシスタントO)とも、今までなら接点はなかったじゃない?
だから、こうして話をできること自体も、素晴らしいことだと思ってます。」

・ファンについて

浩之氏
「まず不安なこととかなんだけど……

全くない(笑)」

美海きょうこ(kyoko)氏
「一つあるのは、
3/4初日(CDのMV視聴動画公開翌日)とか、ドールハウスやミニチュアのお客さんとラブライバーの方の来店が一緒になっちゃうんですよ。
店内もそんな広いわけじゃないのと、人手が足りないのでどうしてもラブライバーの方とお話はするんですけど、ちょっと蔑ろ気味になっちゃったかなって。
ミニチュアやドールハウス目的のお客さんを優先しちゃってるので『このお店そっけないかな』と思われちゃったかなと。
……【困ったこと】ではないんだけれどもね。」

浩之氏
「泡食っちゃったんですよね。
元々CDの発売が四月で、当然ながら『それまでは公表しないように』って言われてて、我々もその四月に向けて皆さんを迎える準備をアドバイスとかももらって色々としていたんだけれども。
一か月前、準備ができる前に唐突に皆さん訪れて……という戸惑いかな?」

※視聴動画での聖地公開はサンライズさんからのサプライズ。その衝撃は大変大きかったようです。

「でもまぁ、戸惑いよりもやっぱり嬉しさの方が大きかったけれどね。
減るものじゃないですし、今来た分後々人が来なくなるというわけじゃないですから。」

きょうこ氏
「予行演習って感じでね(笑)」

浩之氏
「そうそう(笑)

ただ、これがすぐ売り上げに直結するとは考えてなくて。
長い目で見て、『本来来ない人が沼津、このお店に来ている』ということが、これからの期待ですね」

・ドールハウス、そしてドールハウスKIMURAについて

・ドールハウスとは?

浩之氏
「まずは【ドールハウス】の本当の意味から。
17世紀頭にはすでに記録が残っていて、ヨーロッパが発祥なんですけども、ドイツだったりイギリスだったりと色々説があります。
現在一番有力なのはイギリスで、当時は【Doll’s House】と呼ばれてました。アメリカにわたって、【Doll House】になったんです。

もともとDoll’s Houseは比喩的表現で、【人形サイズの家】、【人形が所有するような家】で、直球に言ってしまえば【ミニチュアサイズの家】なんですね。
【人形が入る家】という意味はかけらもなくて。
ですが、Doll Houseという名称が日本に伝わるときに、『人形専用の家』、『人形を入れる家』ととらえる人が圧倒的で、今でも多くの人にはこの意味で伝わっています。
なので、このお店に興味を持って入ってきたお客さんは『人形は売ってないんですね』、『展示しているものに人形が入っていない』と不思議がります。
世界的に見ても本来は入っていないのが普通で、人形を入れない事例の方が多いです。

あとは貴族とか、豪商とか、そこから発祥しているという説もあります。
ドールハウスには、こういった富裕層の人たちが自分たちの生活を相手に自慢するために自分たちの家をミニチュアで作っていたという側面があります。
他にも時代によっては、教育玩具としての側面もありまして、ドイツのニュールンベルグ地方では、【ニュールンベルグキッチン】と呼ばれるアンティークの、【キッチンだけのドールハウス】が現存しています。
ただ、それは今みたいに縮尺が統一されてないんです。」

※現在のドールハウス縮尺は1/12と規定されている。
この当時の縮尺は1/3や1/6などと不統一になっている。

「今みたいに、貴族階級の手を離れて世界中で作って楽しむとなったのは18世紀らしいです。

アメリカ人が当時すでにアンティークだったドールハウスを本国に持ち帰ったという説があります。
ただ、アメリカ人は開拓民族なので、自分たちで何かを作るというのは昔も今も積極的なので、間違ってないかなと。

それで、アメリカ人が本国に持ち帰ったドールハウスを『これは自分たちで作ろう』と、市場のためのメーカーなど作って、そのための統一規格が生まれました。
それが1/12。【一フィートを一インチ】に置き換える。ということです。

あと、意外と意識されている方が少ないのですが、
モノづくりの世界は本来ピラミッドが自然な形で、頂点がプロ、その次にハイアマチュア、最期に一般愛好者という形で裾広がりになっています。
世界的に見れば、ドールハウスももちろん例外ではなく綺麗なピラミッドを描いています。
日本においては、ドールハウスがある婦人雑誌から『お金をかけずに手軽に作れる素朴なクラフト』として紹介されたせいか、未だに【頂点が育たない】という悩みを抱えていますね」

※『日本でのドールハウス』というと、イメージしやすいのがシルバニアやリカちゃん人形の家。
また、素朴な趣味として伝わったころは、【コーヒーミルクのカップを植木鉢に】、【珈琲豆の出がらしを土の代わりに】等というものが雑誌に載っていたという。

「ドールハウスというのは【実生活をそのまま置き換える】ものなんです。

模型との違いなどをよく聞かれますけど、『プラスチック素材をほとんど使わない』んですよ。
ガラス製品をドールハウス用に作るときは同じガラスで。陶器は陶器、磁器は磁器、金属は金属、布は布という様に。わかりやすく言えば、実生活の製品と同じ素材を使うことが主流になるんです。
【大工さんが家具調度品を全部自分で作ること】はしないですよね?しないというか、できない。
家具を専門の職人に任せたり、他から購入することと同じように、ドールハウスもプロになればなるほどおのずと分業化されていくんです。

ただ、これは世界的な流れの話で、日本では前述のとおり婦人雑誌からの影響が根強い流れです。
プロの立場でもすべてを自身で作りたい・作らなければならない的な考え方を持つ方々と、製作スタイルが二極化されています」

※私たちも家具を自分たちで全部作って置くことはそうそうないですよね、家具用の店で購入しませんか?
それと似たようなものだということです。

ドールハウスのマーケットは、ハウス一つ買って終わり!とはならないんです。我々の生活と同じなんです。家をポンポン捨てて買ったりしないでしょう?
一つのハウスの家具や調度品・レイアウトなどを変えて、世代を超えて楽しむものなんです。
そのため、ショーに訪れる方は単品のミニチュアを買いに来る目的の方がほとんど。そして我々プロは、そうしたミニチュアファンのために単品の作品を提供するんです。
分業することでその技術を限界まで高め、結果ハイクオリティなミニチュアを提供できるのです」

※海外のマーケットショーでは、プロの作家として活動すればファンがつくが、マーケットショーでの来店順位が上になるだけでしかない。
日本のように『折角だから何か買っていこう』という考えにはならず、そのテーブルに今欲しいものはなければ『また次回』になる。
また、肩書や経歴はほとんど意味を持たず、極めてシビアな実力社会であるといえる」

・ドールハウスKIMURAのこと

浩之氏
「ウチは洋品店の老舗でした。VANジャケットという物を扱っていまして。
しかしながらバブル以降ちょっと色々すったもんだした結果、商売替えをしまして。
元々美術系だったのもあって、こっちの方が自分はあうかなと。
仕入れて売るというスタイルに限界を感じていたのもありましてね」

※仕入れた商品は必ずほかのところにも売っている。
自分のところで買ってもらうという唯一無二さを求めるには自己生産でしかかなえられないかもしれなかったのだ。

「当時もっともブームがあったのと、『これは面白い』というひらめきがありまして。
最初一年駅前の方でやってたんですけど、手ごたえを感じたのでこちらに全部移って、メンズショップからドールハウスにガラリと。」

・今のドールハウスKIMURAにおける理念

浩之氏
「自分たち自身が【作家】ということも理由にはあるんですが、ヨーロッパ発祥の四百年以上続く文化を大事にしたい。

時の流れとともに文化の変化は多少どこにでもありますが、ことこの日本において文化的経緯やそのものがもつ意味合いを理解せず上っ面だけで飛びつくことには割り切れないものがあります。
日本が、ドールハウスの根底にあるものを理解したうえで日本風に変革するのであれば、それは文化の変化として良くも悪くも受け入れることになると思うのです。
今の日本の作り手は、歴史から入らず好き勝手な解釈で活動をする方が圧倒的に多い。

だからこそ、根底にあるもの、その意味を定着させようと専門店として、また作家として伝えようとし続けています。
根底にあるものを定着させてこそ、市場も定着するようになるという理念で動いてるのです。

でも、表面的に見かじった、聞きかじっただけの【本質を知らない】有名な方ばかりがメディアに出たりするので、本質が結局誰にも伝わらない。
それに、根っこまで掘り下げようとする努力が今のメディアには感じられないんです。

――だから、ラブライブを通じて一人でも多くの方に、正しいドールハウス・ミニチュアを知ってもらう為に協力しました」

ショーウィンドウから見える電気がついているドールハウスがあるが、なぜ電気がつくのか

浩之氏
「ドールハウスには、当時の生活を後世に残すっていう意味合いがあるんです。
何故本物の素材で家具を作るのか、ということと同じです。
当時の木で作られた椅子を表現するのに一番いいのはその木で作ることでしょう?
銀の食器は純銀で、白磁器は白磁器で。それ以外はダメとは言わないけれども、一番美しいのはそういった本物であることじゃないかな。
素材も文化だって言えますよ。

アンティークのドールハウスにはたまに人形があるけれども、この視点で見れば納得しませんか?
当時の住民の髪型の定番、衣装等。当時の【生活文化】を表現する為に必要だった。っていうことじゃないかなと。

つまり、電気がついているのも……?」

※そう、電気のある生活を表現すると、電気が通ったドールハウスであることに何ら問題はない。
逆に、電気のない生活時代を表現するために電気を通してしまうことはナンセンスだと考えられる。
こう考えると、ドールハウスはまさしく【現物資料】という言葉で表せるのだ。

・最後にメッセージを

浩之氏
「今、皆さんが忘れかけている【手作業】、【手作り】の良さという物をミニチュアを通じて思い越してもらいたい。
それを通じて、文化の大切さという物を知ってもらいたいです。
文化を大事にするということは、物を大切にすることにつながると思います。
手作業の難しさを体験して、理解することで初めて見える【価値】があります。
今見失いかけている【価値】を、改めて感じてください。」

 

浩之さん、貴重なお話をしていただきありがとうございました!

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